モミの木は、建築関係者からは、柔らかい、弱い、腐りやすい…などと認識され、建材としては軽視されています。
植林が難しい木ゆえに流通量が少ないことも原因のひとつでしょう。少なくとも国内に5種あるモミと欧州モミは、建築木材として流通していません。建築木材としてかなりの流通量があるホワイトウッドは、ドイツトウヒ(マツ科トウヒ属)です。写真手前はモミ(タンネ)ですが後はドイツトウヒ(フィヒテ)です。
木材を使ううえで、適材適所を知ることは、絶対条件です。
モミは、我国の建築様式において、確かに腐りやすいと誤解されやすい使われ方をしていました。
国宝姫路城では、天守を支える二本の心柱に樅(一本は栂との接ぎ木)が使われました。しかし昭和の大改修時に傷みのひどかった接ぎ木の一本は檜に入替えられています。樅の一本物の柱は平成の大改修時に根元を台檜に継ぎ替えられています。
当初の腐りは築城後すぐに発覚していたようですが十分に乾燥されていないまま建てられ、水分が全て根元に下がってしまったことが原因とされています。しかしこの事柄が起因して樅が弱いと言われるようになってしまいました。
約400年前、全長25m(西大柱は接ぎ木)もある心柱の選定にあたり樹種を選ぶことは難しかったであろうと考えます。当時の木材利用は厳正に管理されておりその適材適所の観点から檜の使用用途は神殿などに限られていました。戦の象徴である城に檜が使われることは無かったであろうとの意見もあります。
一方、諏訪大社の御柱祭は平安時代から続く神事で、ご神木である樅の大木を四つある神殿の四隅に立て(計16本)樅の「精気」にて結界を張り、神を守り、五穀豊穣を祈願していたと言う事実があります。このことからあえて樅を選定した可能性もあるかもしれません。
御柱祭の“樅の引き回し”に参加したことがありますが、全長約17mだそうです。それより8mも長い丸太です。さすがに引き回しをしたと言う記録はないようですが実際問題運搬をどうしたかを考えるとありえない話でもないかもしれません(全くの私感です)。
モミは元来、神聖な木として崇められ、神事に関わることに多く使われています。
建築以外では、白く美しく、際立った匂いもないので、人生の節目となる冠婚葬祭に関わるもの(結納台、御札、棺おけ、卒塔婆)、陶磁器や漆器などの保存箱、おひつ、鮨桶、かまぼこの座板、絵馬などに使われています。
内装材として使用するモミは、充分に自然乾燥された材を用いますので腐る心配はありませんし、狂いも少ないです。(急激な乾燥には注意が必要)
本モミの学名「フィルマ」は 強靭 という意味です。年輪と呼ばれている「冬目」が非常に堅いのが特徴です。樅の木の家では、欧州モミ「アビエス-アルバ」を使用していますが強靭さの上、更に白さが際立つ美しい木肌が魅力です。ちなみに「アルバ」は白いという意味です。堅い冬目を生かした浮造りの質感が足裏に心地よい刺激をもたらします。
元々土足の文化から広まった広葉樹の堅い質感とは違った針葉樹の程よい柔らかさは、素足にやさしく足腰への負担を軽減します。
壁、天井にはもちろん床材も素地のまま無塗装の板を使います。まるで森の中に居るようなさわやかなすがすがしい空気が満ち溢れます。
樹木が発する香り物質を総称して テルペン と呼びますが、モミは α-ピネンという良質なテルペンを多く放散します。この放散は主に立ち木の葉より行われますが、もちろん製材された木材からも放散は続きます。
この効果は樹齢に比例して持続するといわれているので、少なくとも150年は持続することと思われます (推定樹齢150年以下のモミは伐採が許可されない)。
森林浴 という言葉がありますが、このテルペンを求めて行われる行為です。脳からの信号伝達が活発となり、アルファー波の発生、増加に伴い、集中力が向上し、血圧を低下させて、リラックス効果をもたらす等、効果絶大のようです。
「森の中に居るような・・・」とは、テルペンの発生量によって現実となりうる訳です。(テルペンは、森の香りと呼ばれています)
モミの効果的な使用量は、床面積の200%以上といわれています(樅の木の家基準)。これは、床と天井に使用することでまかなわれます。
テルペンを含む、樹木(植物)が放散または分泌する物質を フィトンチッド と呼びます。
樹木(植物)の多く特に針葉樹は、害虫を寄せ付けない忌避作用、子孫を残すために必要な昆虫などを呼び寄せる誘引作用、又はカビや細菌に対抗する抗菌・防カビ作用などを働かせるために、ある物質を放散あるいは分泌させています。この物質が フィトンチッド です。(フィトン=植物、チッド=殺す)
人体に有効な成分は、香り成分テルペンのうち、 α-ピネン です。これは、針葉樹の中でもマツ科モミ属の葉から多く放散することが知られています(トドマツの精油が有名)。
伐採、製材を経て木材となってからも放散は続けられますが、乾燥に人工的な手が加わりますとその量は著しく低下すると報告されています。また、天然更新(自然に種から発芽)か植林されたかによって、木の寿命も大きく変わるそうですので放散のチカラも低下するようです。
※トドマツはマツ科モミ属のモミの木です。
日本の木材市場で、一番目にすることが多いモミの木は、カナダ産の「バルサム」樹齢300年位の大径木から挽かれますが、内装材としては全て人工乾燥されてしまいます。「かすり」と言われる黒い筋が入るのが特徴。カナダの森林では、皆伐(辺り一面の伐採)が行われますが伐った木の倍数の植林が義務化されているとのこと。
カナダ産のモミには「カスケード」「アルパイン」等多数含まれます。
次に中国産の「冷杉」。「スギ」と言う名ですが、モミの木です。いま日本に入ってくるこの木は、チベット地方の物だそうで、植林もままならない森林で違法伐採に限りなく近い皆伐が行われているそうです。乾燥は無論人工乾燥です。輸入規制が掛かるのも時間の問題です。
日本には、五種類のモミの木が存在していますが、木材市場にでるのは「トドマツ」のみ。「マツ」と言う名がついていますが、モミの木です。この材は、合板などに使われているようですが、今後、業界で人工乾燥の問題点を取りただすようになれば、天然乾燥された内装材として名を轟かすかもしれません。精油成分が大変多い木ですから楽しみです。
ドイツのモミの木「欧州モミ」の学名はアビエス-アルバ。アルバは白いという意味でその名の通り白く美しい木です。ドイツの南西部「シュヴァルツヴァルト」の広大な森の中でも二割程しかない貴重な木ですから、日本の木材市場でその姿を目にすることはありません。
ドイツの森林管理は素晴らしく、持続可能な森林として世界最大の国際認証(PEFC)を受けています。ここでは、択伐(選んで伐採)と言う方法で、推定樹齢150年以上の木を計画的に伐採をすることで植林することなく、天然更新が成り立っています。
原木のまま日本に運ばれ全て柾目材として挽かれています。板になった材を自然乾燥させて様々な用途に使われます(建築材以外の用途のものに関しては必ずしも天然乾燥ではありません)。
近年現地製材した板を未乾燥のまま輸入する技術も確立しています。