住宅の安全性とは、単に災害に強いと言うことだけではなく、目に見えない要因からいかに生命の安全を守ることが出来るかが、大きな役割であると考えます。
たとえば、新築間もない戸建て住宅やマンションで、頭痛やめまいに悩まされ、生活もままならないなんて話を耳にすることがあると思います。気の毒に思われますよね。しかし、その様な「気の毒な方」がもしあなたのお家に遊びに来たとしたら、ひょっとして同じ症状が現れるかもしれないのです。
現在普通に流通している住宅建材や家具のほとんどには、シックハウスの症状を引き起こす揮発性有機化合物が含まれています。製品としての品質向上のために使われていますが、人体に悪影響を及ぼす物質がほとんどです。そのために安全基準が定められていますが、室温28℃以下を想定したものであり、温暖化が進んでいる今、実状に合う基準ではありません。せっかく建てたマイホームに住めなくなる日が来るかもしれません。そう考えると、少なくとも内装材には、疑わしいと思われる物を極力使わないという姿勢が、ご家族の健康維持に繋がります。
健康な住まい造りとは、自然素材を使えばよいと思われ、実際に自然素材を提唱する会社は少なくありませんし、それを望む方も多くいらっしゃるはずです。ですから「自然素材の家」とか「無垢材を使った家」など分かりやすいキーワードが氾濫します。ところで「自然素材」や「無垢」と言う言葉に安心していませんか?
更には「化学物質の発生しない素材」などと言う業者がいたりします。ある意味嘘ではないかもしれませんが、木材の有効成分は全て化学物質です。ホルムアルデヒドを発生させる木材も存在します。
木材以外でも自然素材を謳うものもありますが、添加物が無い物は皆無です。多くの物が、その様なイメージが先行した偽物です。
偽物が悪いと言う訳ではなく、薦める側、求める側の意識が問題かと思います。
多くの場合両者間で「偽物」との認識はないはずです。
あるはずも無い、効果・効能を期待し、とりあえず快適な生活を送ることが出来ればまだしも、各所において当初の話とは違う不具合が発生するはずです。最悪の場合、冒頭で触れたような結果を招くことともなりかねません。
化学物質過敏症外来の先生方は「家を新築したりリフォームする際に針葉樹は使わない」と仰られているようです。
マツ門のいわゆる針葉樹は多くの放散物質を含んでいます。人体に有益な成分が多い中で過剰に反応してしまうケースも見受けられているからの様です。
流通しているほとんどの木材は人工乾燥がなされているので実際にはその様な成分(フィトンチッド)を含むことが無いにも関わらず問題視されるのは木材の匂いに関わると思われます。
木特有の匂いは細胞と強く結びついているため人工乾燥されても消滅しません。しかも加熱されることで匂いは変質し刺激臭と成ります。
素材の匂いは健康な住まいにおいて大敵と成ります。
私たちは、健康な住まい造りのために使用する内装材(木材)として次に掲げる三つの条件を提唱し、実行しています。
一、実生の匂いが少ない針葉樹であること!
一、天然乾燥材であること!
一、柾目の材であること!
実生とは、こぼれ種から育つことを指し、それは、自然界の厳しい環境を生き抜いた生命力の強い木であることの証しです。
針葉樹には有益な成分が多く備わっています。
自然乾燥は、文字通り自然の風にさらされ、ゆっくりと水分が抜けていく乾燥の方法です。木が蓄えているたくさんの成分を温存することができます。
当然変質等起きえません。
柾目とは、木の年輪に対して直角に切った時に現れる平行線の木目を言います。柾目材は木材としてとても精度が高く湿ったり乾燥したりといった状況下で最も変形が少ない材料です。
湿気の拡散において抵抗となる細胞がありません。
余談ですが、「桶(おけ)」と「樽(たる)」の違いをご存じでしょうか?調湿を目的としているのが「桶」です。「寿司桶」とか「お櫃(ひつ)」「風呂桶」もそうです。これらは全て柾目材で作られています。
「樽」は、成分の抽出や強度を目的とされ、板目材と言われる、木の年輪に対して平行に切ってできる材で作られます。通常「木目」と言われる模様が特徴的で「酒樽」とか「醤油樽」などが代表的です。
濡れたり乾いたりを繰り返す用途に使用するのが「桶」常に内容物に満たされているのが「樽」です。
柾目材は前記のように濡れても乾いても材としての変形が少ない特徴があります。変形の大きい板目材で「桶」を作ると乾燥した時、隙間だらけとなり壊れてしまいます。しかし柾目材は割れやすいと言う弱点があります。「樽」は内容物を満たしたまま移動することも多く強さがもとめられます。内容物があるため乾燥することはなく変形も最小限に留められるので精度の高い柾目材を使わなくても内容物が漏れることもありません。ただし辺材のみを使うと内容物が浸み出るようです。
住まいの内装材として木材を使うのであれば、変形が少なく調湿に優れた柾目材の使用が好ましいことがわかります。
以上は針葉樹の場合の使い分けで広葉樹の場合解釈が変わります。ワイン樽やウィスキー樽は広葉樹のオーク(ナラ)が使われていますが柾目材です。
オークは「ナラ」を指します。広葉樹の環孔材です。放射組織といわれる養分などの貯蔵機関がとても発達しています。放射組織は柾目を貫く形で形成されています。柾目材で樽を作ると放射組織で内容物を取り囲む形となり、熟成に必要不可欠な樽になるのだそうです。混同される「カシ(ライブオーク)」は広葉樹の放射孔材で細胞組織構成に決定的な違いがあり樽には不向きだそうです。
ところで先に触れたように、板として目にするのは、圧倒的に板目材です。柾目材を目にすることは非常に少ないです。なぜなら一本の丸太から挽ける板の量が全く違います。また、大径木でないと挽くことが出来ません。単純に板幅以上の丸太が必要となります。そのことから昔から柾目材は高級品として珍重されて来ました。
健康な住まい造りには「三つの条件」が必要ですが中でも大切な条件が「柾目材」の採用です。当然使用する量が重要なのですが、湿度は、万病に関わります。人間の身体は元来病気に太刀打ちできる治癒能力を備えています。湿度をコントロールできれば、健康な生活を送ることが出来るという訳です。
樹木には、素晴らしい化学物質が多く含まれています。特に針葉樹の房葉に多いことがしられています。クリスマスツリー(モミ)を室内に飾る理由はここにあると言われています。
生のモミの木を室内に入れるだけで爽やかな香りが広がります。クリスマスツリーとしてオーナメントを飾れば房葉が揺れるたびに更に香りが広がります。室内の乾燥予防にも役立ちますのでぜひお試しください。
マツ科モミ属の木を選んでください。モミ、ウラジロモミ、トドマツ、シラベ、オオシラビソの5種が国産のモミです。
房葉だけではなく、もちろん樹にもふくまれています。樹に含まれる成分は、消臭、抗菌、抗酸化に有効な成分となります。
他にも有害な揮発性有機化合物と結合し、分解してしまう特性を持った成分や、人間の脳に直接働きかける成分も確認されています。
これらの成分の多くは、熱に弱く、約50℃以上の高温に曝されてしまうと、そのほとんどが失われてしまうと言われています。人工乾燥がそれに当たります。人工乾燥された木材は、言うならば「樹木のぬけがら」と言ったところでしょうか。
例えば誰もが「好き」と言われるヒノキの匂い…ヒノキの匂い成分は細胞との固着が強く人工乾燥しても無くなりません。それどころか強くなります。これを分かりやすく表現すると「焼けた匂い」。本当のヒノキの匂いとは優しい香りです。騙されている人がたくさんいます。
木材の持つ効果効能に嘘偽りはないのですが、乾燥の仕方次第で全く違う素材になってしまいます。
日本には「檜神話」があります。法隆寺が千四百年前の木造建築物であることが広く知られています。「檜だから現存している」と言われていますが、「実生」「天然乾燥」という条件が伝わっていません。また、使用された木材の樹齢も、数百年生であったろうことがうかがい知れます。
昭和の大修理時に導入間もない人工乾燥機を使用した木材が使用されたと聞いたことがあります。詳細な理由は分かりませんが残念なことと感じます。
樹木には、樹種によって寿命があります。一般的には、檜は500年、樅も500年、杉は1,000年とか言われていますが、それぞれ「実生」の木であった場合の話です。
今の日本に、その様な木は、ほとんどありません。伐採できる木としては、樹齢200年未満の物が限界でしょう…大量にあるわけでもなく一般的には使用できません。カナダ産の「ツガ」や「モミ」が樹齢300年以上の実生の木と言われていますが、そのほとんどが人工乾燥されてしまいます。写真はシュヴァルツヴァルトの国有林にある「グロースファタータンネ」諸説ありますが推定樹齢500年位でしょう。
植林された樹齢数十年の人工乾燥ヒノキの柱と法隆寺のヒノキを同等に捉えるのは大きな間違いです。
ドイツのシュヴァルツヴァルトという森林地帯では「トウヒ」や「モミ」が自然更新を繰り返し「持続可能な森林」として世界最大の国際認証(PEFC)を受けています。
ある一定の成長を遂げた(推定樹齢150年)大径木を計画的に伐採することで自然倒木などによる森林の崩壊を防いでいます。
植林に頼ることなく、無数に蒔かれたこぼれ種が一斉に発芽して、生命力の強い木が生き延びて行きます。これが「自然更新」で持続可能な森林の基本です。
シュヴァルツヴァルトとは古代ローマ人が名付けた名称で「黒い森」という意味です。
もともとモミが主体の森でしたが近年の環境問題の影響で森の崩壊が進んでしまったそうです。今の森は植林されたトウヒの比率が圧倒的です。
モミとトウヒでは決定的な違いがいくつかあります。モミは深根性、トウヒは浅根性です。森の復活を急ぐために植林に向いた浅根性のトウヒが多くなってしまった様です。
トウヒにはヤニも多いし精油成分も違います。日本人のヒノキ信仰と同じようにドイツ人の生活にはモミが浸透しているように思えます。
そんな貴重なモミの大木ですが木材としては日本に輸出される量が圧倒的です。なぜならドイツ人が大切にするモミの精油成分は房葉から得られるものだからです。
元々ヨーロッパでの建築材料の主体は広葉樹のオーク(ナラ)でした。大きな建物を建てるためにモミを使うこともあるようですが、モミ材への固執は感じられません。
日本に輸出される木材の用途は建築材料としては皆無で、かまぼこ板や卒塔婆、楽器としての用途がほとんどです。それらは現地で乾燥までの処理が施され輸出されていますが、弊社に収められているモミ材に関しましては、試行錯誤の結果、未乾燥のまま輸出され宮崎県小林市のマルサ工業生駒工場に届きます。霧島連山の麓の素晴らしい環境の下、一枚一枚手作業によって大切に管理されています。
こうした手の込んだ工程を経て出来上がる樅の柾目材が、絶対量こそ限られますが実際に存在しています。
ですから先に掲げた三つの条件を満たす木材として「モミ」をお勧めすることが出来るのです。他にも理由があります。「モミ」は欧州で古くから「森のお医者さん」との異名を持っているそうです。
「ヒノキ」や「スギ」の様な、特有の匂いがなく、匂いに対するアレルギー反応が出にくいとの見方がされています。我が国で古くから「かまぼこ板」として使用されている理由はここにあります。
化学物質過敏症の権威が「針葉樹を選ばない」と言う警鐘を発しています。
確かに針葉樹全般には、多くの化学成分が含まれているために人によっては過剰に反応を示すことがあるのだと思われます。その事実を知ったうえでモミを推奨できるのはそれ相応の裏付けが出来ているからです。
ただ、絶対ということはありませんので化学物質過敏症と認識されているのであればお試しいただくことが必須です。
長年、木造住宅の建築に携わって来ましたが、これほど安心して使用できる木材があったでしょうか?住宅が抱える多くの問題に対して「モミ」を使うことで解決できるかもしれないことが数多く考えられます。
内装材としての使用量が重要であるということに触れましたが、その目安量は、床面積の200%以上と定めています。床は、原則「モミ」。それ以外の内装材については、できれば海藻のりを使った「本漆喰」。叶わなければ極力疑わしい素材を使わないと言う考えの基、採用を検討します。
「うち(自分)は、大丈夫!」と言う言葉をよく耳にします。その様な考え方で本当に家族の健康を守れ(維持でき)ますか?
家造りに関して、今の自分を基準にするのは、間違いと断言します。家造りで健康被害をこうむっている方々がいる以上「なぜなのか?」を探求するべきではないでしょうか…
安易な考えでの家造りは、目に見えない危険がいっぱいです。営業トークの鵜呑み、良い方向への解釈…などはしないでください。取り返しがつかなくなります。
どうしてもという場合は必ず素材を比較してください。 差は歴然です。とにかく行動してください。
最後に、最近「欠陥住宅」という言葉をあまり耳にすることが無くなったと感じられませんか?
法の改正や建築業者間での過剰とも思われる、躯体性能強化競争の結果、表面的に品質の一定化が図られてきた結果と思われます。
実際の現場を覗くと建物のコストの違いをまじまじと感じさせるずさんな管理が目にあまります。建築工期も短く、不都合があっても見る見る隠されて行くので、お客様の目に付くこともありません。
特に床下は要注意!施工中に降られた雨が行き場を失い、木材をカビさせます。内装のほとんどが透湿性の無い素材で構成されて行きますので、反響音の大きな空間になります。
上げると切がない話ですが、何年か後、この様な住宅のことを「欠陥住宅」と言う日が来るような気がしてなりません。
以上が、山下工務店が提唱し、実行している「健康な住まい造り」のかたちです。